新人の質問に、社内の資料を読んで AI が答える仕組み(社内チャットボット)は、資料が文字で読める形で、決まった場所にそろっていないと役に立ちません。AI が答えられるのは、読める資料に書いてあることだけだからです。仕組みを作る前に、資料の置き場所と中身を整える時間を取ります。
産業機械の販売と整備を行う会社様から、新人の教育ができる体制を作りたい、とご相談をいただきました。2026 年 5 月に移行の確かめの手順を作り、7 月までに、パソコンごとにあった資料を社内の共有の場所(Microsoft の SharePoint)に移しました。そのうえで、資料を読んで答える新人教育用のチャットボットと、資料を探すページを作っています。7 月 31 日に、社長と現場で資料の整理を受け持つ方と、ここまでを振り返りました。
目的は、新人が自分で調べて答えにたどり着けることでした
振り返りの場で社長と確かめ合ったのは、何をもってうまくいったと判断するかです。答えは、新人の教育を会社の中で回せるようになったかどうか、でした。チャットボットを入れること自体が目的ではありません。
最初は別の業務アプリを入れる話から始まり、回り道をして、今の形に落ち着きました。社長は、ここからが本格的なスタートだ、という受け止め方でした。
- 数える今の資料の量・種類・置き場所・権限を書き出す
- 試しに移す一部の資料を移し、欠けや権限の崩れが無いかを確かめる
- 移す共有の場所に移し、パソコンからは同期で使う
- 整える重なった資料を整理し、画像の資料を文字にする
- 答えさせる整った資料から、チャットボットと検索で使えるようにする
- 使いながら直す届いた質問をもとに、資料と置き場所を直す
移す前に、今の資料の量と置き場所を数えます
5 月に作った手順の最初の段階は、今の資料の棚卸しです。数えたい項目を並べました。
- 全体の容量と、使っている容量
- ファイルの数とフォルダの数
- 種類ごとの数(図面、表計算、文書、PDF、写真、動画)
- いちばん大きなファイルの大きさ
- いちばん長いファイルの場所の名前(フォルダの階層の深さ)
- アクセスの権限の付け方
- 直近 1 年で開かれたファイルの割合
あわせて、使う人の数、パソコンやタブレットの台数、今のメールと資料の置き場所、お客様とのファイルのやり取りの方法も聞き取ります。整備の工場では、整備士がタブレットで点検の写真を撮り、そのまま共有の場所に登録する使い方も想定したからです。
移すときに確かめる項目
試しに一部を移す段階では、次の項目を確かめることにしました。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| ファイルの数 | 移す前と後で、数が一致するか |
| フォルダの形 | 階層の形が崩れていないか |
| ファイル名 | 文字化けしていないか |
| 権限 | 見てよい人だけが見られる設定が、移した先でも引き継がれているか |
| 場所の名前の長さ | 長すぎて移せないファイルが無いか。あれば記録を残す |
| 検索 | 移して 24 時間たったあと、中の文字で探して見つかるか |
| リンク | Excel の中に書いた社内のリンクが、移した先の場所に置き換わっているか |
このうち、ファイルの数・フォルダの形・権限の 3 つは、1 つでも崩れたら本番に進まない、と決めました。権限が崩れると、見せてはいけない資料をチャットボットが答えに使うおそれがあります。
移したあとは、部署ごとの 5 つの場面で、現場の方が自分で使えるかを試します。営業の見積書の共有、整備の点検の写真の登録、倉庫の在庫表の同時編集、経理の月次の資料、総務のお知らせです。
画像として貼られた資料は、文字にしておきます
振り返りで出た課題の 1 つが、Excel の中に画面の写しを画像として貼った資料です。人が見る分には困りませんが、画像のままだと、中の文字で探しても見つかりません。チャットボットが答えに使うときも、文字の資料の方が確実です。
そこで、AI に答えさせる前提の資料は、画像を文字に起こしておくことをおすすめしました。起こす作業にも AI を使えます。
同じ資料が年度ごとに重なっていたら、大きくてよく使うものから整理します
共有の場所に移してみると、同じ資料が年度ごとに重なって残っていました。古い年度のものと、最近の年度のものが並んでいる状態です。チャットボットが古い方の資料を引いて答えると、新人は古い手順を覚えてしまいます。
整理の順番は、次のように決めました。
- 量が多いまとまり、よく使うまとまりから手を付ける
- 今使っているかどうか分からない資料は、消さずに保留にする
- フォルダの分け方(部署ごとにするか、権限をどこまで分けるか)は、会社としてどう分かれていたいかと一緒に決める
フォルダの分け方は、ファイルの置き場所の問題に見えて、会社の組織の形の問題でもあります。現場で整理を受け持つ方が分け方を考えながら、会社としてのありたい形を言葉にしていく作業だと位置づけました。9 月末までを、その整理を進める期間にしています。
資料の検索では、標準の機能で足りるかを先に確かめます
当社がつまずいたのは、資料の中の文字で探す検索のところです。標準のままでは、ほしい探し方をするのに高額な有料の追加機能が要ることが分かりました。代わりに、無料で公開されている仕組みで同じ働きを作ろうとしたところ、入れたときに検索結果がエラーになる不具合が出て、直すのに時間がかかりました。この経緯は、振り返りの場で社長にそのままお伝えしています。
次に同じ仕組みを作るときは、標準の機能でできる範囲と、足すと費用や手間がかかる範囲を、作る前に分けて確かめます。チャットボットの答えの質も、元の資料を探す仕組みの出来に左右されます。
AI の道具は、会社の契約の中で使えるものから選びました
この会社様は、Microsoft 365 を会社として契約していました。そこで、AI はまず会社の契約の下で使える Copilot を優先することにしました。Microsoft は、Microsoft 365 Copilot のプロンプトと応答、社内のデータは、基礎の大規模言語モデルの学習に使わないと説明しています。ChatGPT を使う場合は、入力を学習に使わない設定にするよう、設定の場所をご案内しました。お客様の情報を入れるときの注意もあわせてお伝えしています。
道具の比べ方と契約の確かめ方は、AI の選び方と契約の記事に書きました。
作って終わりにせず、届いた質問から直していきます
チャットボットと検索のページができたあとも、現場からは質問が届き続けています。届いた質問は、資料の置き方や名前の付け方を見直すきっかけになります。
社内の資料を使って AI に答えさせる仕組みは、資料の整理と一緒に少しずつ育てるものです。当社の AI伴走支援では、毎月の打ち合わせで、こうした整理と設定を 1 つずつ進めます。社内の資料を AI に引かせる仕組みの考え方は、用語集の RAG と ナレッジベース にもまとめています。



