試作の画面や機能の案は、本物の利用者に見せる前に、AI に使う人の役をさせて確かめています。2026 年 4 月 4 日と 5 日、当社が作っていた業務のアプリ(日報、営業の記録、顧客と案件の登録)の試作を、AI に 4 人の役をさせて評価しました。若手の営業の役は、内容の欄に一言だけ書いても保存できてしまう抜け道を見つけています。
ただし、AI の評価は架空の人物の意見です。採るかどうかを決めるのは人で、最後は本物の利用者に試してもらいます。
4 人の役を、別々に評価させました
| 役 | 設定 | 見てもらったもの |
|---|---|---|
| 現場の担当者 | 52 歳。パソコンは苦手で、入力は面倒だと感じている | 19 の機能の案 |
| 社長 | 58 歳。数字は見たいが、細かい操作はしない | 19 の機能の案 |
| 使いやすさの専門家 | 画面の作りを見る立場 | 19 の機能の案 |
| 若手の営業 | 24 歳、入社 2 年目。パソコンは得意だが、やる気は低め | 試作の 5 つの画面 |
3 人の役には、機能の案 19 個を S・A・B・C・D の 5 段で別々に評価させ、その後で結果を 1 枚の表にまとめさせました。若手の営業の役には、第一印象、記録の入力、スマートフォンで使えるか、サボれるところ、顧客や案件を登録する気になるか、見た目の感想、「使ってもいいかな」と思う条件、の 7 つの観点で画面を見てもらいました。
役の設定は、次のような書き方で AI に渡しています(例です)。
あなたは、従業員 20 名の会社で現場の作業を担当している 52 歳の社員です。
パソコンは苦手で、スマートフォンは LINE とカメラだけ使います。
日報を書くのは面倒だと感じていて、上司に見張られるのは嫌です。
この立場で、下の機能の案を 1 つずつ、S・A・B・C・D の 5 段で評価してください。
評価ごとに、その理由を、この人が言いそうな言葉で 1〜2 文書いてください。
立場、道具の得意さ、仕事への気持ちの 3 つを書くと、評価の理由がその人らしくなります。点数だけを出させず、理由を必ず書かせるのは、あとで人が評価を読み直したときに、なぜその点なのかを確かめるためです。こうした頼み方は、プロンプトの書き方の 1 つです。
3 人の評価で、案を 5 つの組に分けました
| 組 | 主な案 | 決め方 |
|---|---|---|
| 最優先 | AI が日報を書き、人は確かめて出すだけ。入力は 3 段まで | 3 人とも最高の評価 |
| 必須 | チャットでの入力、レシートや名刺を撮って登録(OCR)、メールや予定表からの自動の登録 | 2 人以上が A 以上 |
| 要設計 | 毎日のボーナス、チームの目標、未入力の人の表示 | 効果はあるが、作り方を誤ると逆効果 |
| 不採用 | くじ引きのような演出、順位の常時の表示、レベルが下がる罰 | 2 人以上が D |
| 検討 | 音声での入力、チャットでの案内、ふつうの言葉での検索 | 意見が割れた |
くじ引きのような演出は、3 人とも低い評価で、子ども扱いされていると受け取られるという理由が並び、不採用にしました。音声での入力は、現場の担当者の役が、人の前で話すのは恥ずかしく使えるのは 1 人のときに限られると評価し、意見が割れた組に入っています。
3 人に共通していたのは、入力の手間を減らすより、入力そのものをなくす案を高く評価したことです。予定表やメールから自動で記録する、AI が日報を書く、チャットで送るだけ、といった案です。
若手の営業の役が見つけた、4 つのこと
- 内容の欄に「了」の一言だけ書いても保存できる(抜け道)
- 見本の名前がそのまま画面に出ていて、自分の名前でないことに戸惑う
- 同僚の日報が出ていないことが通知に出る。自分も見られていると感じる
- スマートフォンの画面はボタンが大きく、3 段で終わるので使いやすい
いちばん役に立ったのは、1 つ目の抜け道です。観点に「サボれるところ」を入れていたので、AI の役は入力の確認の甘いところを探しにいきました。内容の欄は空でなければ保存できる作りになっていて、一言だけでも通ってしまうことが分かりました。本物の利用者に見せてから気づくより、ずっと早く直せます。
一方、ホームの画面に今月の成果の数字が大きく出ることを、若手の営業の役は、上司に見られているようで重荷だと受け止めました。経営者が見たい数字ほど、見られる側には重く感じられます。同じ画面でも、見る立場で受け止め方が変わる点は、役を分けて評価させたことで見えてきました。
AI の役に頼むと得意なことと、人が確かめることが分かれます
AI の役で先に分かること
- 入力の確認の穴や抜け道
- 見本の名前など、試作に残ったもの
- 立場によって受け止め方が割れる点
- 明らかに嫌われそうな演出
本物の利用者で確かめること
- 本当に毎日使い続けるか
- 実際の仕事の流れに合うか
- 評価が割れた案をどうするか
- AI の役が言わなかった不満
AI の役の言葉は、もっともらしく、感情もこもって聞こえます。それでも、本物の利用者の声ではありません。当社は、AI の役の意見を、お客様の声として使うことはしません。社内で案を絞るための材料として扱い、意見が割れた案は「検討」に回して、本物の利用者に試してもらうときの確かめどころにします。AI はもっともらしいことを言う道具でもあるので(ハルシネーション)、評価の理由が試作の画面の事実と合っているかも、人が見て確かめます。
頼むときのこつは 3 つです。立場の違う役を用意し、別々に評価させること。点数と理由を必ずセットで書かせること。そして、抜け道やサボり方を探す観点を入れることです。
当社の業務のアプリは、この評価のあと、チャットでの入力を中心に組み直しました。その理由はチャットで入力する作りにした記事に書いています。AI に役を演じさせる使い方は、用語集のロールプレイにもまとめました。業務の試作や社内の仕組みづくりに、こうした確かめ方を組み込む進め方は、AI伴走支援でもお手伝いしています。



