社員が AI でうまくいった頼み方は、その人のパソコンの中に残ったままになりがちです。社内で使い回すには、1 件ごとに「用途・指示文・期待する出力・注意」の 4 つをそろえた見本集にします。2026 年 5 月、製造業の会社様向けの研修で、10 の分野・52 件の見本集を作りました。この記事は、そのときの形をもとにしています。
1 件の見本には、4 つの欄を作ります
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 用途 | どの場面で、何のために使うか(1 行) |
| 指示文 | そのままコピーして AI に貼れる文。数字や名前は [ ] の空欄にする |
| 期待する出力 | どんな形の答えが返ってくれば成功か |
| 注意 | 値を貼るときの約束、うまくいかなかった点、人が確かめること |
指示文だけを集めた見本集は、使う人が「これで合っているのか」を判断できません。期待する出力の欄があると、返ってきた答えが見本どおりかを、使う人が自分で確かめられます。
見本の 1 件を、元の見本を一般の会社向けに書き直して載せます。
用途: 月次の会議の前に、数字を経営者向けに要約する
あなたは当社の経営の相談役です。以下の月次の数字を、経営者向けに要約してください。
【入力する数字】
- 売上: [金額] 円(前月比 [%]、前年同月比 [%])
- 粗利率: [%](前月比 [増減])
- 受注の件数: [件](新規 [件]、継続 [件])
- 不良率: [%](前月比 [増減])
【出力の形】
1. 今月のハイライト(3 点以内、数字を主に)
2. 気をつける点(粗利率と不良率に、いつもと違う値があれば)
3. 来月に優先すること(3 点)
箇条書きで簡潔に。抽象的な表現ではなく、数字と事実で書いてください。
期待する出力: 数字の付いたハイライト 3 点、前月との差を数字で書いた注意、誰が何をするかが分かる来月の行動
注意: 数字を貼るときは単位(円・件・%)を書く
最初の「あなたは当社の経営の相談役です」の一文は、AI の立場を決める書き方です。会社で毎回同じ立場をとらせたいなら、こうした一文を見本ごとにそろえておきます。毎回の会話の前に与えておく形にしたものは、システムプロンプトと呼ばれます。数字や名前を空欄にした型そのものは指示文のひな形、見本を 1〜2 件つけて形をそろえる頼み方は Few-shot と呼びます。
分野は、会社の仕事の分け方に合わせます
研修用の見本集は、次の 10 の分野に分けました。
| 分野 | 件数 | 見本の例 |
|---|---|---|
| 経営 | 6 件 | 月次の数字の要約、会議の議題づくり |
| 営業 | 6 件 | 初回の提案のメール、商談の要約、過去の案件から概算を出す支援 |
| 人事 | 5 件 | ベテランの音声のメモを技術の引き継ぎの文書にする、面談の要約 |
| 経理 | 5 件 | 経費の分類と仕訳の下書き、月次の経費の要約 |
| マーケティング | 5 件 | 技術のブログ記事の下書き、展示会の告知文 |
| お客様からの問い合わせ | 4 件 | 問い合わせの分類と担当の振り分け、クレームの最初の返答 |
| 製造 | 5 件 | 作業指示書のひな形、工程の改善の提案 |
| 品質の規格の文書 | 5 件 | 手順書の下書き、内部監査のチェックリスト |
| 品質 | 5 件 | 不良の分類のまとめ、再発防止の効果の確かめ |
| 見積もり | 6 件 | 似た案件からの概算、見積もりのリスクの整理 |
合計 52 件です。
分野の名前は、その会社の部署や仕事の呼び方に合わせます。社員が「自分の仕事の欄」を探して開けるようにするためです。
社内のチャットのボットから呼び出して使う見本には、目印を付けました。人がコピーして使う見本と、仕組みに組み込んで使う見本では、直すときの手順が違うからです。
見本集と一緒に、AI に読ませる決まりのひな形も渡しました
見本集だけを渡しても、社員ごとに AI の設定が違えば、同じ指示文でも答えがばらつきます。研修では、AI に読ませる決まりのファイルや作業の手順をまとめた、47 のファイルのひな形も渡しました。社員のパソコンでも同じ決まりで AI が動くようにするためです。
Claude を使っているなら、資料と指示を 1 か所にまとめて社内で共有できる「プロジェクト」(2024 年 6 月に公開)や、決まった作業の手順を登録して呼び出せる「スキル」(2025 年 10 月に公開)を、見本集の置き場所に使う方法もあります。
見本を 1 件足すときの手順
社員がうまくいった頼み方を見つけたら、次の順で見本集に足します。
- 指示文の中の本物の名前や数字を、[ ] の空欄に置き換える
- 用途を 1 行で書く。「誰が、どの場面で使うか」が分かるように
- そのとき返ってきた答えを見て、期待する出力の欄を書く
- 使ってみて気をつけた点を、注意の欄に書く
- 別の人に 1 回使ってもらい、同じような答えが返るかを確かめる
5 つ目を省くと、書いた本人にしか通じない見本が増えます。本人は前提を知っているので、指示文に書き足りないところがあっても気づけないからです。
社内で回すときに決めること
- 置き場所は 1 か所だけにする
- 1 件ごとに、用途・指示文・期待する出力・注意の 4 つをそろえる
- 本物のお客様の名前や金額は入れず、[ ] の空欄にしておく
- 誰が見本を足し、誰が直すかを決める
- 使ってうまくいかなかった点は、注意の欄に書き足す
- 使われなくなった見本は消す
とくに大事なのは、注意の欄を育てることです。使った人がつまずいた点を書き足していくと、見本集は社内の経験の記録になります。研修用の見本集でも、数字を貼るときは単位を書く、データの整理が済んでから正確な値が取れる、といった注意を見本ごとに添えました。
見本集をそろえても、最初から 52 件を使いこなす必要はありません。研修の最後のワークは、「最初に取り組む 1 つ」を選ぶ組み立てにしました(1 日の AI研修の記事)。見本集は、その 1 つから使い始め、うまくいった頼み方を 1 件ずつ足していくものです。
毎月の作業として見本集やスキルを整えていくなら、AI伴走支援の設定作業の中で行います。指示文の型については、用語集の指示文の見本集とシステムプロンプトにまとめました。



