アンケートの自由記述を AI に分類させるときは、分類の前と後に人の手を入れます。前にするのは、原文を 1 つの表に集めて出所を付け、数に入れない回答を決めることです。後にするのは、AI が付けたテーマの件数と引用を、原文に戻って確かめることです。AI に任せるのは、その間の「読んで分ける」作業です。
2026 年 4 月、管理職向けの研修を行う会社様から、研修の効果を測るアンケートの分析を頼まれました。自由記述は、回答者の区分ごとに分かれたシートの、いくつもの列に入っていました。私が頼んだのは、設問ごとにどんな傾向のコメントがあったかをまとめ、1 つの設問を 1 枚の資料にすることです。この記事では、そのときに決めた手順を、中小企業白書が載せた分類の指示文と並べて書きます。
中小企業白書 2026 も、自由回答の分類に生成 AI を使っていました
2026 年 4 月 24 日に閣議決定された中小企業白書の 2026 年版には、自由記述の回答を生成 AI で分類した図があります(第 2-2-90 図)。AI の活用に取り組んだ事業者に、AI の具体的な使い方を自由に書いてもらい、その回答を生成 AI(gpt-4.1)で 12 のテーマに分けて、業種ごとの割合を並べたものです。図の注には、分類に使った指示文が載っています。白書は「一部加工」と断ったうえで、次のように書いています。
以下の文章は「業務におけるAIの具体的な活用方法」に関する自由記載のテキストです。文章を読み、各テキストを12個のカテゴリに分類してください。一つのテキストを複数のカテゴリに分類しても構いません。なるべくカテゴリに分類できるよう、語義を広く解釈しても構いませんが、文意を損なわないように注意してください。実際に活用に至っていないものは、カテゴリに含めないでください。
短い指示文ですが、分類を頼むときに書いておくことがそろっています。
| 指示文に入っていること | 白書の指示文の言葉 | 自社のアンケートで書くこと |
|---|---|---|
| 何の回答か | 「業務におけるAIの具体的な活用方法」に関する自由記載 | 設問の文をそのまま |
| いくつに分けるか | 12個のカテゴリ | テーマの表(名前と定義) |
| 1 件を複数に入れてよいか | 複数のカテゴリに分類しても構いません | 入れてよいか、1 つに決めるか |
| どこまで読み取ってよいか | 語義を広く解釈しても構いませんが、文意を損なわないように | 書かれていない意図を推し量らない、など |
| 入れないもの | 実際に活用に至っていないもの | 「特になし」、設問とずれた回答など |
白書は、「分類不能」と「その他」に入った回答を図から除き、1 件が複数のテーマに入るので合計は 100% にならない、とも注に書いています。分けた結果を読む人に、何を数えていないかを伝えるための注です。分類の結果は、中小企業白書 2026 の AI の数字の記事で読みました。
分類の前に、原文を 1 つの表に集めて出所を付けます
研修の会社様のアンケートでは、まず自由記述を 1 枚の表に集めました。原本の 4 つのシートにある 8 つの設問の列から、回答を 1 行 1 件で縦に並べ、各行に「どのシートのどのセルから取ったか」を書き込みました。集めたあとは、表の回答がすべて原本のセルと同じ文か(前後の空白は除いて)を、プログラムで突き合わせています。この表では、要約も分類もしません。
- 集める回答を 1 行 1 件の表に集め、元のシートとセルの場所を書く
- 除く「特になし」や空欄など、数に入れない回答を決めて外す
- テーマを決めるAI に案を出させ、名前と 1 行の定義は人が決める
- 分けさせるテーマの表を渡して、AI に 1 件ずつ分けさせる
- 確かめる件数と引用を、出所の付いた原文に戻って確かめる
- 書く傾向と引用と、読み取ったこと(所見)を分けて書く
出所を付けておくと、AI が引用した回答を、元のセルまでたどれます。この表はプログラムで原本から作り直せるようにしておいたので、回答があとから増えても、同じ手順で表を作り直してから分け直せます。
数に入れない回答も、分類の前に決めます。このときは「特になし」「なし」と空欄を外し、外したあとの件数(実質の件数)と、外す前の件数を分けて記録しました。何を外したかを書いておかないと、読む人によって割合の分母が変わってしまいます。
テーマの名前は、回答に書かれている言葉から付けます
テーマの案は AI に出させてかまいません。名前と定義は人が決めます。このときに決めた決まりは、次の 4 つです。
- テーマの名前は、回答の中で実際に使われている言葉を根拠にする
- 回答に書かれていない「含み」や「裏の意味」からテーマを立てない
- 件数が 3 件に満たないテーマは立てず、近いテーマにまとめるか、引用の 1 つとして使う
- テーマを多く見せるために、細かく分けない
まとめるかどうかで迷うのは、言い方が違うだけなのか、中身が違うのか、という点です。
まとめる(同じ変化の言い方の違い)
- 「傾聴できるようになった」と「話を聴くようになった」
- 「沈黙を恐れなくなった」と「間を大切にするようになった」
分けたままにする(中身や立場が違う)
- 「聴き方の変化」と「問いかけの変化」
- 受講した本人が書いた自分の変化と、部下が書いた上司の変化
「分けたままにする」の 2 つ目は、同じ言葉が並んでいても、誰が書いたかで意味が変わる例です。自分の変化を本人が書いた回答と、相手から見た変化を書いた回答は、まとめずに区分ごとに数えます。
AI への頼み方には、定義と、入れないものまで書きます
テーマの表が決まったら、AI に分けさせます。白書の指示文の要素に、当社の決まりを足すと、頼み方は次のような形になります(例)。
以下は、アンケートの設問「〇〇」への自由記述です。
1 行が 1 件の回答で、先頭は回答の番号です。
次のテーマの表に従って、各回答を分けてください。
1 件を複数のテーマに入れてかまいません。
【テーマの表】
T1 〇〇: (定義を 1 行で)
T2 〇〇: (定義を 1 行で)
(以下同じ)
どのテーマにも当てはまらない回答は「その他」、
意味が読み取れない回答は「分類できない」にしてください。
回答に書かれていない意図を推し量って、テーマを付けないでください。
結果は「回答の番号・テーマ・根拠になった言葉」の 3 列の表で返してください。
「根拠になった言葉」の列を付けるのは、あとで人が確かめるためです。テーマが合っているかを、回答の全文を読み直さずに判断できます。AI は、ありそうな理由をもっともらしく書くことがあります(ハルシネーション)。根拠の言葉が回答の中に本当にあるかも、出所の付いた表で確かめます。
回答に人の名前や取引先の名前が入っているときは、AI に渡す前に伏せます。伏せ方は名前と金額を伏せる手順の記事に書きました。
件数には幅を持たせ、引用は原文のまま使います
自由記述の件数は、選択式の件数ほど正確には決まりません。1 件が複数のテーマに入りますし、境目の回答をどちらに入れるかで数が動きます。このときの資料では、「最も多い」「約〇件」「〇件以上」のように、幅を持たせた書き方にしました。数に入れなかった回答があるときは、その旨も書きます。
引用は、回答の原文をそのまま使います。要約したり言い換えたりした文を「」に入れると、回答者の言葉ではなくなるからです。長い回答は、文として終わっている部分を抜き出します。個人が分かる書き方は伏せ、所属は出典として添えます。
| テーマの件数 | 引用する数の目安 |
|---|---|
| 10 件未満 | 1〜2 件 |
| 10〜30 件 | 2〜3 件 |
| 30 件以上 | 3〜4 件 |
読み取ったことは、引用とは別の「所見」の欄に書きます。「〜と感じている人が多い」のような解釈を引用の近くに混ぜると、どこまでが回答者の言葉で、どこからが書き手の読みかが分からなくなります。
分けた結果を、数える前にもう一度読みます
AI が返した表は、件数を数える前に、テーマごとに並べ替えて読みます。同じテーマに入った回答を続けて読むと、定義から外れた回答が目に付きます。外れた回答が多いテーマは、定義の 1 行を直して分け直します。
選択式の設問の集計を、表計算の数式で作り直す前に確かめたことは、AI に Excel の集計をさせる前の記事に書きました。自由記述を分けて数える作業を、調査の分野ではアフターコーディングと呼びます。回答によく出る言葉を数えて傾向を見る方法は、テキストマイニングです。アンケートの集計や分析を、毎月の作業として AI に任せたい場合は、AI伴走支援で、表の作り方から一緒に決めます。



