残業の上限と、有給の年 5 日の取得は、月末や年度末にまとめて集計すると、超えてから気づきます。この記事では、それを月の途中で知るために、勤怠のどの数字をどう集めるかを紹介します。
例にするのは、経営ダッシュボードの人事労務(勤怠と労務の数字を集める商品)の設計です。2026 年 4 月 24 日に要件をまとめ、25 日に画面と記録の形を決めました。経営ダッシュボードは当社が開発したクラウドサービスで、社外の会社に導入した事例はまだありません。
先に、法律で決まっている上限と年 5 日を確かめました
厚生労働省の働き方改革特設サイトで、次の数字を確かめました。
| 決まり | 数字 | 中小企業で始まった時期 |
|---|---|---|
| 残業の上限(原則) | 月 45 時間・年 360 時間 | 2020 年 4 月 |
| 特別な事情で労使が合意した場合でも超えられない線 | 年 720 時間以内、2〜6 か月の平均で 80 時間以内、単月で 100 時間未満(後の 2 つは休日の労働を含む) | 2020 年 4 月 |
| 月 45 時間を超えてよい月 | 年 6 か月まで | 2020 年 4 月 |
| 有給の年 5 日 | 付与日数が 10 日以上の人に、付与した日(基準日)から 1 年以内に 5 日を取得させる | 2019 年 4 月 |
有給については、人ごとに年次有給休暇の管理簿を作り、3 年間保存することも決まっています。残業の上限の決まりは時間外労働の上限規制、残業をさせるために労使で結ぶ協定は36 協定と呼ばれます。
月末にまとめて集計すると、月 45 時間を超えてから気づきます
要件を書く前に、中小企業の勤怠で起きていることを 4 つに分けました。
- 月末に Excel でまとめて集計するので、ある社員の残業が積み上がっていることに、月の途中で気づけない
- 特別な事情の合意をしていても、年 720 時間や複数月の平均 80 時間は、手作業では追いきれない
- 有給の年 5 日の取得の状況を年度末まで追えず、未達の人が年度末に駆け込みで取得する
- 総務の担当 1 人の Excel に勤怠の台帳があり、その人が辞めたり休職したりすると引き継げない。社員も自分の残業や有給の残りを見られない
どれも、数字は打刻の記録の中にあるのに、集計するのが月末か年度末に 1 回しかないことが原因です。そこで、打刻の記録から毎日集計し、上限の手前で知らせることにしました。
打刻から毎日集計し、上限の 8 割に達した人を知らせます
知らせの条件は次のとおりです。
| 知らせ | 条件 | 重さ |
|---|---|---|
| 月 45 時間に近い | 今月の残業が 36 時間を超えた | 警戒 |
| 月 45 時間を超えた | 今月の残業が 45 時間を超えた | 重大 |
| 月 80 時間に近い | 今月の残業が 80 時間に近づいた | 重大 |
| 月 100 時間に届くおそれ | 今月の残業が 100 時間に届くおそれがある | 重大 |
| 月 45 時間を超えた月の数 | 年の中で 6 回に届くおそれがある | 警戒 |
| 年 360 時間に近い | 年の残業が 288 時間を超えた | 警戒 |
| 特別条項の対象者 | 特別条項で合意した上限に近づいた | 重大 |
| 承認されていない残業 | 残業の実績があるのに、申請が承認されていない | 注意 |
36 時間と 288 時間は、どちらも上限の 8 割です。上限を超えてから知らせても、できることは残っていません。8 割の時点で知らせれば、その月の残りの仕事の割り振りを変えられます。
同じ人の同じ月に、同じ知らせは 1 回しか出しません。毎日同じ知らせが届くと、読まれなくなるからです。知らせは、本人・承認する上司・総務に届きます。
有給は、残りの期間と取得の進み方から「5 日に届かない見込み」を出します
| 知らせ | 条件 | 重さ |
|---|---|---|
| 年 5 日の対象者 | 付与日数が 10 日以上 | 情報 |
| 5 日に届かない見込み | 残りの期間と取得の進み方から、5 日に届かないと計算された | 警戒 |
| 期限が近い | 基準日から 1 年の期限まで 3 か月を切り、5 日に届いていない | 重大 |
| 取得の予定がない | 基準日から半年たって、取得が 0 日 | 警戒 |
基準日は人によって違います。入社日から計算するので、4 月にまとめて確かめるだけでは、ほかの月に基準日が来る人を見落とします。人ごとの基準日から 1 年を区切って数えるのは、手作業では手間のかかるところです。
打刻を直しても元の記録を残し、月次の締めのあとは変えられないようにしました
勤怠の数字を信じてもらうには、記録の直し方も決めておく必要があります。
- 打刻を直したときは、元の打刻を消さずに残し、直した打刻に「誰が・いつ直したか」と元の記録を結び付けます
- 打刻の直しや残業は、申請と承認を通します
- 月次締めは、承認待ちの申請が 0 件になったときだけ確定できます。締めたあとは、その月の申請を変えられません。締めを開き直せるのは管理者だけです
締めのあとに数字が動かないことで、給与ソフトに渡した数字と、画面の数字が食い違わなくなります。給与は計算しない設計で、締めのあとに給与ソフト用の CSV を書き出します。
毎朝見る画面には、今日確かめることだけを並べました
- 今日の労務まだ打刻していない人、承認待ちの申請、上限に近い人、有給が 5 日に届かない見込みの人を、件数と一覧で出す
- 社員ごとの状況今月の残業と 45 時間の線までの進み、有給の残りと 5 日までの進みを、社員ごとに並べる
- 月次の締め承認待ちが 0 件かを確かめて締めを確定し、給与ソフト用の CSV を書き出す
2026 年 4 月 25 日に決めた画面の形です。
社員ごとの状況は、本人・承認する上司・総務が見られます。社員が自分の残業や有給の残りを見られないことも、最初に挙げた困りごとの 1 つでした。
範囲から外したものも、理由と一緒に決めました
最初の形から外したのは、たとえば次のものです。
| 外したもの | 理由 |
|---|---|
| 離職の兆しを見つける機能 | 20〜40 名の会社では人が特定されやすく、見張る道具になるおそれの方が大きい |
| 給与計算・年末調整・社会保険の手続き | 専用のサービスがすでにある。勤怠の CSV を渡す形にする |
| 事務所の大きな画面に、社員ごとの勤怠を出すこと | 勤怠の数字は、人が特定されやすい |
| 複雑な変形労働時間制とシフトの組み立て | 最初は基本の形だけにする |
| 「法律を守れていると保証する」書き方 | 道具がするのは集計と知らせまで。判断は会社と社会保険労務士の方が行う |
最後の行は、機能ではなく言葉の決まりです。画面や案内に「法令の順守を保証」「自動で管理」とは書かず、「早く見つける手助け」「集計と知らせ」と書くことにしました。
勤怠の仕組みに登録しておく情報と決まり
- 打刻の記録から、毎日集計する仕組みがある
- 上限の何割で知らせるか(この設計では 8 割)を決めた
- 特別条項で合意した上限を、社員ごとに登録した
- 有給の基準日を、社員ごとに登録した
- 知らせを誰に届けるか(本人・上司・総務)を決めた
- 打刻を直したときに、元の記録が残る
- 月次の締めの条件と、締めたあとに変えられないことを決めた
- 社員が自分の残業と有給の残りを見られる
当社の経営ダッシュボードは、営業・進行管理・マーケティング・経理・人事労務の 5 つの商品から、必要なものを選んで使う形です。年 5 日の年次有給休暇の決まりの当てはめ方や、自社の協定の中身は、社会保険労務士の方に確かめていただくのが確実です。



