紙の作業指示書をタブレットに移したとき、最初の説明会で現場から出た要望の多くは、画面の操作の質問ではありませんでした。紙では書かずに済んでいた「待ち」の状態と、図面や金型に手書きしていたノウハウの置き場所の話です。
2026 年 3 月 26 日、プレス加工と金型を手がける会社様で、当社が作った作業指示の仕組みを現場の皆さんに説明しました。その場で「金型待ち」の状態を足すと決め、紙と並行して使っていただいたあとの 4 月 14 日に、直す項目を 13 にまとめています。
紙の作業指示書の流れを、上流から順に一覧に分けて画面にしました
このお客様では、作業指示書・作業日報・材料の手配を紙で回していました。このお客様では、全従業員に iPad が配られていました。仕組みは、お客様が社内で使っていた Lark(チャットと表をまとめて使える業務アプリ)の上に作り、現場はタブレットで見る形にしています。
画面は、紙が人の手から手へ渡っていた順番のまま、一覧に分けました。
- 生産指示数の入力事務所で、作る品番と数を入れる
- 材料手配の振り分け材料の手配が要るものと、すぐ現場に回せるものに分ける
- 材料手配待ち材料が届くまで、ここに並ぶ
- 作業者割り当て待ちまだ誰も持っていない作業が並ぶ
- 作業中「私が作業します」を押した人の一覧に移る
- 検品待ち・在庫計上検品で良品の数に直し、在庫に計上する
2026 年 3 月 26 日の説明会で見せた形です。このあと材料手配待ちの次に「金型待ち」を足しました。
現場の方は「私が作業します」を押して、作業を自分の一覧に移します
紙のときは、作業指示書を手に取って持っていけば、それが「この作業は自分がやる」という合図でした。画面では、「作業者割り当て待ち」の一覧から作業を選び、「私が作業します」を押します。押した作業は、その人の「作業中」の一覧に移ります。紙を持っていく動きを、ボタン 1 つに置き換えました。
図面が登録されている品番なら、作業中の画面からそのまま図面を開けます。途中で手を止めるときは「作業報告継続」、終えたら「作業報告完了」を押し、使った設備・始めた時刻と終えた時刻・数量を入れます。この記録がたまると、朝礼で「誰がどの作業を持っているか」「遅れているのはどれか」を、画面を見ながら話せます。
曲げのあとにプレス、のように、工程ごとに担当が替わる品番もあります。そのときは一度「作業者割り当て待ち」に戻し、次の担当の方が「私が作業します」を押して引き継ぎます。作業が誰の手元にあるかというステータスは、いつも 1 つに決まるようにしています。
説明会で出た要望は、紙では書かずに済んでいた「待ち」とノウハウの話でした
説明会は朝 9 時からの 2 時間でした。現場から出た要望と、その場でお答えしたことは次の 9 つです。
| 現場から出た要望 | その場でお答えしたこと |
|---|---|
| 1 つの作業を 2 人以上でしたときの扱い | 細かく分けず、最後の数量と不良の数を結果として入れる |
| 寸法を測った結果を残したい | 今の画面には無い。品質の記録として、別に考える |
| 加工の条件やコツを残したい(今は図面や金型に手書き) | 品番・図面・工程に結び付けて残せるよう、最優先で考える |
| 材料があっても、金型が無いと作業を始められない | 「金型待ち」の状態を足す |
| 金型がどこにあるかを、品番から引けるようにしたい | 品番の一覧と保管場所の一覧を整え、担当の方が自分で直せるようにする |
| 工程の選択肢を増やしたい | 名前を増やしすぎず、番号で管理する。1 つの品番で 10 工程ほどまで |
| 製品の写真を残したい | 送れるようにはできるが、最初は機能を増やさない |
| 発注をどうするか | 発注先や必要な量の出し方がまだ人の頭の中にあるので、当面は社長が中心に行う |
| 金型ごとのショット数と手入れの時期を管理したい | まずメモと一覧を整え、そこから集計につなげる |
9 つのうち 4 つは金型の話です。紙の作業指示書には金型の欄が無く、金型の置き場所や手入れの時期は、担当の方の整理と経験で回っていました。加工の条件は、図面や金型そのものに手書きされていて、消える・残らない・ほかの人と共有しにくいという声がありました。
工程の名前については、その場で「増やしすぎない」と決めています。品番ごとに工程の呼び名がばらばらだと、あとで数えられないからです。翌日に、指示書から工程の呼び名を抜き出して分類しました。その手順は工程の呼び名を 17 の分類にまとめた記事に書いています。品番や工程のような基本の一覧をマスターデータと呼びます。
「金型待ち」を足したのは、作業を始められない時間が画面に出ていなかったからです
説明会の時点の流れでは、材料が届けば「作業者割り当て待ち」に並びます。ところが、プレスは材料があっても金型が無ければ始められません。金型を取りに行く手間があり、別の拠点まで取りに行くこともあります。
画面の上では始められる状態なのに、実際には始められない。この食い違いがあると、「作業者割り当て待ち」に並んでいる作業に本当に手を付けられるのか、一覧を見ても分からなくなります。そこで、材料手配待ちと作業者割り当て待ちの間に「金型待ち」を置きました。
4 月 14 日の見直しで、ここはもう一段細かくなりました。材料を手配したら入荷の予定日を入れて「金型待ち」に移し、作業の一覧の左側に入荷の予定日を出す形です。入荷までは基本的に 8 日ほど、と担当の方から伺っています。
紙と並行して使った後に、直す項目を 13 にまとめました
4 月 14 日に、担当の方 3 名からお話を伺い、直すことを 13 項目にまとめました。種類で分けると次のとおりです。
| 種類 | 出たこと |
|---|---|
| 数字が合わない・消えた | 作業の手配が消えて、翌日に戻っていたことがある。在庫の計上に、完了の数が反映されていない |
| 流れの順番 | 作業のあとに「作業後一覧」を置き、そこから在庫の計上か検品に分ける |
| 知らせ | 作業後一覧に入ったら、事務の担当の方にチャットで知らせる。外注に出すものも同じ |
| 図面 | 品番が同じなのに図面が開けないものがある。図面があるかを確かめるボタンを付ける |
| 担当 | 自分以外の人も作業者に入れたい。誰がした作業かを後から追いたい |
| 材料 | 入荷の予定日を入れたい |
1 行目の 2 つは、使い方の要望ではなく、画面の数字が実物と合わないという話です。こうした食い違いが続くと、現場の方は紙の方を信じるようになり、画面に入れる理由がなくなります。5 月の打ち合わせでは、入れた直後は入っている完了の数が、時間をおいて 0 に書き換わる不具合が見つかり、調べる項目に入りました。数字の食い違いは、1 回の見直しで片付くものではありません。同じ打ち合わせでは、タブレットの画面に図面を開くボタンが出ていなかったので、ボタンを足しています。
最初は移さなかったのは、発注と写真と寸法の記録です
全部を一度に画面へ移すと、現場の方が覚えることも、数字が合わないときに調べる場所も増えます。このお客様では、最初は次の 3 つを移していません。
- 発注: 発注先・材料・必要な量の出し方が、まだ人の頭の中にありました。全員が同じように発注できる状態ではないため、当面は社長が中心に行い、発注の履歴がたまってからデータにする順番にしました
- 写真: 送れるようにはできますが、最初の形に入れると画面が増えるので、後に回しました
- 寸法の記録: 品質の記録として、検査のやり方と一緒に考えることにしました。測った値を品番と工程に結び付けて残せば、品質の記録にもそのまま使えます
移さないと決めるのは、作業指示に限りません。機械の製造と据え付けを手がける別のお客様(従業員 85 名ほど)の例もあります。お中元とお歳暮の送り先の管理は、顧客管理のシステムに入れず、Excel のまま残すと決めました。個人か会社か、金額の段階、送り方と項目が込み入っているうえ、件数は 100 件ほどで、システムに入れるとかえって手間が増えるからです。
紙から画面に移す前に、決めておくこと
- 紙が誰から誰へ、どの順番で渡っているかを書き出した
- 材料・金型・検品など、作業を始められない「待ち」の状態が抜けていない
- 工程の呼び名を増やしすぎないよう、番号か分類で選ぶ形にした
- 紙と並行して使う期間と、見直しの日を決めた
- 画面から開きたい図面などの資料が、品番ごとに登録されている
- 最初は移さない業務を決め、現場に伝えた
- 数字が合わないと言われたときに、誰が調べるかを決めた
当社の経営ダッシュボードでは、作業の区切りに、スマートフォンのチャットで工程と数量を入れる形を用意しています。金属加工の工場のモデルケースは想定の例です。今の紙の流れのどこから画面に移すかは、30 分の無料相談で、御社の作業指示書を見ながら一緒に決めます。



