2026 年 5 月 6 日、プレス加工と金型を手がける会社様の社長から、鋼材の在庫を管理するアプリの要件を受け取りました。コイルと切板の入荷から、使い切るか捨てるまでを記録するアプリです。社長ご自身が書いた最初の版で、作り始める前に当社で読み、よく書けている点と、まだ決まっていない点を分けてお返ししました。
結論から書くと、材料の流れと、記録を消さないという決まりは、そのまま使えるほど書けていました。決まっていなかったのは、例外のときの記録の扱いです。途中で止めて残った材料を倉庫に戻すとき、間違えた記録を直すとき、同じ材料を 2 人が同時に押したとき。作り始めてからこれらを決めると、データの形から作り直すことになります。
社長の要件には、入荷から使い切りまでの流れと、記録を消さない決まりが書けていました
要件に書かれていた材料の流れは、次のとおりです。
- 入荷登録事務の方が、納品書の番号・仕入先・材質・板厚・幅・重さ・置き場所を入れる
- 倉庫に保管倉庫の一覧には、保管中の材料だけが並ぶ
- 使用開始現場の方が使い始めると、倉庫の一覧から外れる
- 使い切り・途中停止使い切ったか、途中で止めたかを記録する。止めたときは理由と使った量を残す
- 残った材料の扱い倉庫に戻すか、現場に置くか、捨てるかを選ぶ
2026 年 5 月 6 日に受け取った要件の最初の版から作成
よく書けていたのは次の 3 点です。
- 使い始めた材料は倉庫の一覧から外すが、データは消さない。消さずに状態を変えるだけ、という決まりは、あとから問い合わせを受けたときに効きます
- 記録の種類を「入荷・使用開始・使い切り・途中停止・残材戻し・修正」の 6 つと書き出してある
- 使う人を、管理者・事務・現場の 3 つの役割に分け、現場の方がするのは使用開始と停止だけにしてある
業務の流れを、状態の移り変わりとして書けていれば、要件の骨はできています。ここまでを、社長がご自身で書いていました。
読んで見つけたのは、足りない点 5 つ、あいまいな点 5 つ、食い違いのおそれ 5 つでした
| 区分 | 見つけたこと |
|---|---|
| 書かれていない | ログインの方法/同じ材料を 2 人が同時に押したときの扱い/現場のスマートフォンの画面/数字の桁と単位/CSV で書き出す形 |
| あいまい | 倉庫の一覧に出す列/記録を直せる人と項目/残った材料を戻すときの番号と重さ/コイルの数と切板の枚数の使い分け/捨てるときの流れ |
| 食い違いのおそれ | 残った材料を戻すと、入荷のときの重さが消える/事務の方が重さを直すと、発注の量の計算が変わる/現場で全角の数字が入る/同じ日に同じ材料が入ると一覧で見分けられない/使うサーバーの上限を確かめていない |
どれも、業務の流れを書くときには目に入りにくいところです。流れは「ふだんどう動くか」で書きますが、ここに並んだのは「例外のときにどうするか」と「画面と数字の細かい決まり」です。業務のシステムを作る前にこうした点を決める作業を要件定義と呼びます。
いちばん先に決めていただくようお願いしたのは、残った材料を倉庫に戻すときの番号の付け方です
途中で止めた材料を倉庫に戻すとき、元の材料の記録を書き換えて残りの重さにすると、入荷のときの重さが消えます。仕入れた重さと使った重さを、あとで突き合わせられなくなります。
元の記録を書き換える
- 元の材料の重さを、残りの重さで上書きする
- 入荷のときの重さが消える
- 仕入れた量と使った量を突き合わせられない
- どの入荷の残りかが、記録の上で追いにくい
新しい番号を付けて記録を足す(推奨)
- 残った材料に新しい番号を付け、倉庫の一覧に戻す
- 元の材料の記録は、入荷のときのまま残る
- 新しい記録に、どの材料の残りかを書いておく
- 使った量は、履歴を足していけば出る
当社の推奨です。どちらにするかで、データの形が変わります。
この 1 点は、ほかの項目より先に決めていただくようお願いしました。番号の付け方は、データの形そのものに関わるからです。作り始めてから変えると、作ったところをやり直すことになります。
1 枚の納品書を 1 行にし、同じ材料でもまとめない形を勧めました
材質も寸法も同じ材料なら、在庫の一覧では 1 行にまとめたくなります。当社は、納品書 1 枚を 1 行にする形を勧めました。入荷した日や仕入先が違えば、同じ材質でも材料の製造の単位(ロット)が違うことがあります。まとめてしまうと、品質の問い合わせを受けたときに、どのロットを使ったかを追えません。
ロットごとに分けておけば、仕入先ごとの費用も追えます。製品から材料までたどれることをトレーサビリティと呼び、ロットごとに分けて持つことをロット管理と呼びます。
数の単位も、推奨を添えました。コイルは重さ(kg)、切板は枚数と重さの 2 つで記録する形です。形によって数え方が違うので、入力の画面も形によって切り替えます。
間違えた記録を直せる人と、直さない記録を決める形を勧めました
要件には「修正の履歴を残す」とありましたが、誰が何を直せるかは書かれていませんでした。事務の方が重さを直すと、それをもとに出している発注の量まで変わります。
勧めたのは次の形です。
- 記録を直せるのは管理者だけにする
- 直せるのは入荷の情報(重さ・備考・置き場所)だけにする。使った実績はあとから直さない
- 直すときも元の記録を上書きせず、「修正」という履歴を 1 行足す
- 履歴は足すことしかできず、書き換えも削除もできないようにする。誰が操作したか、いつ操作したかは必ず残し、時刻は入力した人の端末ではなくサーバーの側で付ける
あとから中身を確かめられる記録の残し方を、用語集の変更履歴にまとめています。
同じ材料を 2 人が同時に押したら、後から押した人に知らせる形を勧めました
現場の方が何人かいれば、同じ材料に同時に「使用開始」を押すことがあります。勧めたのは、先に押した方の操作だけを通し、後から押した人には「ほかの人が操作しました。画面を更新してください」と出す形です。
あわせて、状態がどこからどこへ移れるかを表にし、表に無い動きはシステムが受け付けないようにします。使い切った材料に、もう一度「使用開始」が押せてしまう、といった食い違いを防ぐためです。
| 今の状態 | 次の状態 | 操作 | できる人 |
|---|---|---|---|
| 倉庫に保管 | 使用中 | 使用開始 | 現場・管理者 |
| 使用中 | 使い切り | 使い切り | 現場・管理者 |
| 使用中 | 途中停止 | 途中停止 | 現場・管理者 |
| 途中停止 | 倉庫に保管 | 残材戻し(新しい番号で) | 現場・管理者 |
| 途中停止 | 廃棄 | 廃棄 | 管理者 |
| 倉庫に保管 | 廃棄 | 廃棄 | 管理者だけ |
現場のスマートフォンの画面は、チャットではなく入力欄を並べた画面を勧めました
当社の経営ダッシュボードでは、毎日の日報のように項目の少ない入力を、スマートフォンのチャットで受けています。この在庫アプリでは、チャットにしない方を勧めました。途中で止めたときに入れる項目は、使った量・残りの量・残りの扱い・止めた理由などで 5〜7 つあります。1 問ずつ聞くチャットでは、かえって手間が増えます。
スマートフォンの画面では、次の形を勧めました。
- 倉庫の一覧から材料を選び、使用開始を確かめるまで、3 回押せば終わる
- 押すボタンや一覧の行は、指で押しやすい大きさにする。Apple の画面づくりの手引きでは、iPhone と iPad の押せる部分の大きさの目安を 44 × 44 ポイントとしています
- 数字を入れる欄では、数字のキーボードが出るようにし、全角の数字はサーバーの側でも受け付けない
- 使い切りや廃棄のように取り消せない操作では、確認の画面を 1 回だけはさむ
入力の手間を減らす、という目的は同じでも、項目の数で入口の形は変わります。
作る前に決めていただく 10 の項目
- 残った材料を戻すときの番号(新しい番号を付け、元の記録は守る)
- 同じ材料を 1 行にまとめるか(納品書 1 枚を 1 行にする)
- 使った量と残りの量の単位(コイルは kg、切板は枚数と kg)
- 直せる人と項目(管理者だけ、入荷の情報だけ)
- 倉庫の一覧に出す列と絞り込み(材質・置き場所・形で絞る)
- CSV の形(Excel で文字化けしない文字コード、最初は倉庫の一覧だけ)
- 材質や置き場所の一覧の最初の中身(材質は代表的なものから、置き場所と担当はお客様から一覧をもらう)
- 捨てる操作をどこから許すか(途中停止の残りからだけ)
- 同時に使う人数(3〜5 名と見て、同時に押したときの扱いを決める)
- データを何年分残すか(5 年を目安に、法律で決まった期間があれば合わせる)
このうち、残った材料の番号、倉庫の一覧の列、ログインの方法、同時に押したときの扱いの 4 つが決まれば、最初の形を作り始められます。最初の形は 6〜8 週を目安と見ました。CSV で全部の履歴を書き出す機能や、在庫が減ったときの知らせは、使い始めてからの段階に回す案にしました。
業務の流れは、毎日その仕事を見ている社長の方が詳しく書けます。この件でも、流れの部分はほぼそのまま使えました。足りなくなりがちなのは、例外の扱いと、画面と数字の細かい決まりです。数字を集めて 1 画面で見る仕組みは、当社の経営ダッシュボードで用意しています。社内の業務の仕組みを AI と少しずつ作る進め方は、AI伴走支援のページに載せています。



