営業の作業を AI に任せるかどうかは、作業の名前ではなく、間違えたときに何が起きるかで決めています。当社では、メールや提案書の下書き、返信漏れの洗い出し、見積もりの材料をそろえる作業は AI に任せています。メールを送る、金額を決める、日付を約束する作業は人が持っています。
間違えたときの被害・取り消せるか・相手の信頼の 3 つで、AI に任せるかを決めます
作業を 1 つずつ、次の 3 つの問いに当てはめます。
- 間違えたとき、誰にどれだけの被害が出るか
- 間違えたあとで、取り消せるか
- 相手が当社を信頼するかどうかに関わるか
1 つでも重いものがあれば、その操作は人に残す
1 つ目は被害の大きさです。社内向けの下書きが間違っていても、読んだ人が直せば済みます。お客様に届いた見積もりの金額が間違っていれば、その金額が相手の社内の検討にそのまま使われます。
2 つ目は取り消せるかです。送ったメールは取り消せません。社内のシステムに登録した内容は後から直せますが、消したデータは戻らないことがあります。2026 年 9 月の社内の打ち合わせでも、AI が誤ってファイルを操作したり消したりするおそれを話し合い、読み取りを基本にする前提を確かめました。
3 つ目は信頼です。問い合わせへの最初の返信、日程の確定、金額の話は、お客様が当社をどう見るかを決めます。文面が丁寧でも、決めていない約束が 1 つ入っていれば、信頼を損ねます。AI の間違いをお客様に届く前に止める手順は、確認の手順の記事 にまとめました。
当社では、下書きと洗い出しを AI に任せ、送る・決める・約束する作業を人が持っています
「見積もりの概算」の行は、当社が研修の教材で扱った例です。
| 営業の作業 | AI に任せていること | 人がしていること | 人に残す理由 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせの返信漏れの確認 | 毎朝、受信したメールと送ったメールを突き合わせ、返していないものを洗い出す | 返信を書いて送る | 信頼 |
| 打ち合わせのあとのお礼メール | 下書きを作り、宛先や Cc の迷いどころを書き出す | 内容と宛先を確かめて送る | 取り消せない |
| 日程の調整 | カレンダーを見て、候補の日時を出す | 移動に間に合うかを見て、確定の連絡をする | 信頼 |
| 議事録 | 録音の文字起こしから下書きを作り、聞き取れない数字を「要確認」に挙げる | 要確認の欄を確かめる | 被害 |
| 見積もりの概算 | 似た過去の案件を並べ、金額の幅と確認事項を出す | 金額を決める | 被害・信頼 |
| 提案書 | 下書きを作り、社内の言葉が残っていないかを点検する | 金額・約束・送るかどうかを決める | 被害・信頼 |
| メールマガジン・ステップメール | 文面の下書き | 送信の操作。自動の送信は準備が整うまで止めている | 取り消せない |
| 社内の業務システムへの登録 | 情報を読む、登録する | 削除と外への送信(AI からはできない作りにしている) | 取り消せない |
問い合わせの返信の分け方は 問い合わせの返信を下書きまでにする記事 に、議事録は 商談の記録の記事 に、提案書は 提案書の下書きの手順 に、それぞれ詳しく書いています。
見積もりでは、AI に金額の幅と確かめる点を出させ、金額は人が決めます
表の「見積もりの概算」は、2026 年 5 月の研修用に作った教材の実演の場面から取りました。金属加工の会社様向けの教材で、データは研修用のサンプルです。
営業の担当者がチャットで「材質・板厚・数量・品名」を AI に送ると、AI は過去の似た案件を 3 件並べ、それぞれの単価と、受注できたか失注したかを示します。そのうえで、今回の概算を「いくらからいくらまで」の幅で返し、確かめるべき点(加工の公差、表面処理、納期と分納、初回の検査)を添えます。単価を 1 つに言い切ることはしません。最終の判断は、ベテランの営業か、その会社の社長が行います。
AI に任せたのは、判断に要る材料を机の上に並べるところまでです。教材では、こうしておけば経験の浅い営業でも最初の準備までは 1 人で進められると説明しました。見積もりの下書きを題材にした研修の進め方は、板金・部品加工の会社のモデルケース(想定)に書いています。
AI伴走支援は「何でもできます」と伝えるのをやめ、できることを 1 つずつ区切って示しています
2026 年 9 月の終わりに、社内で 2 回、AI伴走支援 の伝え方を振り返りました。
「AI で何でもできます」と伝えると、話が広がり、何をするのかが決まりませんでした。お客様から見ても、月額 20 万円(税別)で何をしてもらえるのかが分かりません。期待だけが上がって中身が決まらないのは危ないという懸念を、社内で共有しました。そこで、「カレンダーとつなぐ」「メールとつないで下書きを作る」のように、できることを 1 つずつに区切って示すことにしました。
お客様の側の期待が高いこともあります。研修の前の電話で、「AI に何でもやらせればよい」という期待を伺ったことがあります。そのときに研修の進め方をどう組み直したかは、研修の前に確かめることを書いた記事 にあります。期待が高いときほど、AI に任せる作業と人が持つ作業を、1 行ずつ書き出しておく意味があります。
AI ができる操作そのものを狭くし、データの削除や外への送信はできないようにしています
決まりを文書にしただけでは、急いでいる日に守られないことがあります。当社では、AI ができる操作そのものを狭くしています。
- 社内の業務システム(2026 年 6 月から使っているもの)は、AI(Claude)から情報を読んだり登録したりできます。削除と、外への送信はできない作りにし、AI の操作はすべて記録しています
- 毎朝のメールの点検で AI に渡している道具は、メールを読むためのものだけです
- 自社サイトのメール配信は、メールマガジンの送信を人の操作に限っています。ステップメールは初めは止まった状態の作りで、用意した 7 通もまだ動かしていません(ステップメールの記事)
AI に任せている
- メールを読み、返信漏れを洗い出す
- お礼メール・議事録・提案書の下書き
- 過去の案件を探して並べる
- 社内システムの情報を読む・登録する
人が持っている
- メールを送る
- 金額と日付を決める
- 提案書を送るかどうかを決める
- メールマガジンの送信の操作
仕組みで止めている
- 社内システムのデータの削除
- 社内システムから外への送信
- 毎朝の点検でのメールの送信と既読への変更
- ステップメールの自動の送信(準備が整うまで)
AI を社内のシステムやメールとつなぐ仕組み(MCP)では、つなぐときに「読むだけか、登録や送信までか」を決められます。表で人に残した操作は、つなぐ段階でできないようにしておくのが確かです。
表は、営業の作業を書き出して 3 つの問いに当てはめ、1 つずつ試しながら直します
表は、最初から全部を埋めなくて構いません。
- 営業の作業を、1 日の流れの順に書き出す
- 1 行ずつ、3 つの問いに当てはめる
- 「AI に任せる」に入った作業のうち、1 つだけを試す
- 試した結果を見て、表を直してから次の作業に進む
社員が会社の知らないところで AI を使っている状態(シャドー AI)を防ぐにも、この表は役に立ちます。表を社内の決まりにまとめる進め方は、社内の AI の決まりを A4 1 枚にまとめる記事に書きました。
これまでの研修の後に届いたご相談は、AI研修の後に届いた 2 件のご相談の記事 にまとめました。日程の候補は AI が出し、協力会社への確定の連絡は人が行うという分け方は、 工務店のモデルケース(想定)にも書いています。



