同じ人の名刺が、担当者ごと、会うたびに登録されていく。まとめようとすると、前の担当者の情報が消えてしまう。2026 年 3 月 25 日に、従業員 80 名ほどの機械メーカーで、顧客管理の打ち合わせをしました。いちばん時間を使ったのが、この問題でした。
この会社では、名刺を入力用のフォームで取り込み、AI を通して顧客管理の仕組み(CRM)に登録する流れを試していました。打ち合わせは、その試しの運用で出てきた困りごとを持ち寄る場で、当社も加わっていました。決めたことを、ほかの会社でも使える 5 つのルールにまとめます。
同じ人の記録が何件も登録される理由
| 困りごと | 起きていたこと |
|---|---|
| 重なり | 同じ人の名刺を、別の担当者が、別の日に登録する |
| 担当者 | 1 つの取引先に担当者が何人もいるのに、仕組みは担当者 1 人が前提 |
| 更新 | 役職が変わった、異動した、という情報を人が手で直している |
| 探しにくさ | 「自分が会った人」で探したいのに、担当が替わると探せなくなる |
名刺が増えるほど、重なりも増えます。重なりをそのままにすると、同じ人に同じメールが 2 通届いたり、別の担当者が同じ会社に別々に連絡したりします。記録を同じ人ごとにまとめる作業を名寄せと呼びます。
ルール 1:重なりを見つける鍵は、メールアドレス、次に電話番号
名前と会社名は、表記がそろいません。「株式会社」の位置、旧字体、全角と半角で、同じ人が別の人に見えます。そこで、重なりの候補を見つける鍵を次の順に決めました。
- メールアドレスが同じなら、同じ人の候補にする
- メールアドレスが無いか違うときは、電話番号が同じなら候補にする
- どちらも違うのに同じ人に見えるときは、自動でまとめず、人が見て決める
候補が見つかったら、登録するときか登録したあとに知らせが出るようにし、まとめる操作は人が行います。
ルール 2:まとめるときは新しい方を正にし、前の担当者と履歴は残す
消えてしまうまとめ方
- 古い記録を消して、新しい記録だけを残す
- 前の担当者の名前が消える
- 過去のメールや打ち合わせの記録が、どちらかに置き去りになる
決めたまとめ方
- 会社名・役職・連絡先は、新しい方の記録を正にする
- 前の担当者は、履歴として残す
- 過去のやり取りは、まとめた 1 件の記録にすべて付け替える
役職や連絡先は、新しい名刺の方が正しいことが多いので、新しい方を採ります。一方で、誰がいつ会ったかは、営業にとって消えてほしくない情報です。まとめたあとも、前の担当者と過去のやり取りがたどれることを、まとめ方の条件にしました。
ルール 3:担当者は、主と副の 2 人まで持てるようにする
1 つの取引先に、担当者が何人もいることはよくあります。担当者を 1 人しか持てない仕組みでは、誰かの名前が上書きされます。担当者は主と副の 2 人まで付けられるようにし、担当を替えたときは前の担当者を履歴に残す形にしました。「自分が会った人」で探せなくなる問題も、これで避けられます。
ルール 4:分類の項目は、使い始める前に決める
名刺を探すときの分類の軸は、次の 5 つにしました。
| 分類の軸 | 中身 |
|---|---|
| 担当者 | その人に会った営業の担当 |
| 相手の立場 | 顧客か、仕入先か |
| 会った場 | 展示会、見学会など |
| 業界 | AI が名刺から判定し、人が確かめる |
| 商品・サービス | どの商品に関係する人か(項目は会社で決める) |
使いながら分類を足していくと、たとえば「展示会」「展示会 2026」「展示会(春)」のような似た項目が、人によって増えていきます。分類の項目は先に決め、足すときは管理する人が足す、という決まりにしました。メールを一斉に送るときに、この分類でまとまりを作ることも考えて決めています。
会った場の分類は、顧客管理の仕組みの「キャンペーン」として記録します。展示会ごとに名刺を結び付けておくと、その展示会でどれだけの人と会い、そのあとどれだけ連絡が続いたかを数えられます。この考え方は、用語集のキャンペーン(顧客管理)にまとめています。
ルール 5:AI が付けた業界は、人が確かめる候補として扱う
名刺の会社名から AI に業界を判定させる仕組みも入れることにしました。ただし、AI の判定は「提案の値」として扱い、人が確かめて直せるようにします。業界の分け方そのものも、その会社の取引先に合わせて先に決めます。AI に自由に業界名を付けさせると、ルール 4 で防いだはずの似た項目が、AI の側から増えるからです。
顧客管理に入れないと決めたものもあります
お中元・お歳暮の送り先の一覧は、顧客管理の仕組みに入れず、Excel のまま続けることにしました。件数は約 100 件で、個人宛てと会社宛てが混ざり、金額の段や送り方の違いもあります。この記録を顧客管理の項目に合わせて入れ直すと、かえって手間が増えます。全部を 1 つの仕組みに入れることを目的にしない、という判断です。
打ち合わせでは、もう 1 つ分かったことがありました。仮に始めた連絡の運用を、現場の方は本番の運用だと受け取っていました。試しの運用は、困りごとを洗い出すためのものです。試しを始めるときは、試しであることと終える日を、現場の方に伝えておく必要があります。
月 1 回の掃除の手順
- メールアドレスが同じ記録を一覧にし、まとめる
- 電話番号だけが同じ記録を一覧にし、人が見て同じ人かを決める
- まとめたあと、前の担当者と過去のやり取りが残っているかを確かめる
- 異動や退職の連絡を受けた人の記録を直す
- 決めていない分類の項目が増えていないかを見る
- AI が付けた業界のうち、まだ人が確かめていないものを確かめる
掃除は、管理する人が行うと決めました。名刺のアプリなどから前の名刺をまとめて取り込むときは、取り込む前に、重なりの見つけ方と消してよいデータの決まりを決めておきます。重なったまま取り込むと、あとから分けるのに手間がかかります。データを整える作業全体は、用語集のデータクレンジングの項目に書きました。
当社の営業外注化では、写真か郵送で受け取った名刺を月 200 枚まで当社が登録し、名刺を交換した場ごとに整理しています。名刺から読み取った文字の確かめ方は、用語集の OCR と名刺管理の項目にあります。



